+αな人

山本 典子 氏

医療現場の「あったらいいな」を形にできる看護師を目指して

 

氏名 山本 典子, Noriko Yamamoto, RN, EMT(救命救急士), CW(保育士),福祉住環境コーディネーター
現在の職業 看護師、代表取締役
現在の勤務先 株式会社メディディア 医療デザイン研究所
出身大学・学部 大津市民病院付属看護専門学校
臨床専門分野 小児、母性、救急
+αの道に入る前の臨床経験年数 10年位
+αの道に入った後の臨床経験年数 8年
+αの道に入った際の年齢 40歳
+αの道の種類 医療機器等の研究開発。自社製品販売。
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何故+αを選んだのか

京都で看護師・救急救命士として7年間 総合病院に勤務し寿退職。その後7年間4人の育児と専業主婦として暮らしていましたが、夫の郷里・福井に転居してからは、福井では共働きが普通の環境のため、福井県済生会病院に復帰しました。ブランク7年も経っているにも関わらず、臨床は何も変わっていなかったのに驚きました。

その中で、看護師が埃だらけのテープをむき出しのまま持ち歩き、手でちぎって患者さんに貼付する処置に問題があると考えました。様々な人たちに相談した結果、自分で製品開発をすることになりました。

どのようにして+α道に入ったのか

商工会議所に相談しインキュベーションマネージャーの指導を受けながらビジネスプランを立てました。資金調達のために国の支援事業の助成金を調査し、(独)中小機構のベンチャー支援企業に応募、採択されました。支援を受けるためには会社設立を指示されたことから「株式会社メディディア」を立ち上げるに至りました。

プラスαの道はどうであったか,何を学んだか

ビジネスを全く知らない看護師が、法人登記や税務署、社会保険庁、労働基準監督署など自身で書類を作成し手続することは容易ではありませんでした。本来なら行政書士に依頼するところですが、お金に余裕がなかったため、何度も自分で書類を修正しながらようやく会社を設立することができました。この時の経験は、代表取締役への心構えにつながったと今でも思います。

さて、製品開発を考え出して初めて医療用サージカルテープカッターが世の中になかった理由を知りました。まず市販のセロハンテープとは違い、使用者が限定されていたためか、医療の現場からのニーズがメーカーに伝わっていませんでした。またテープメーカーはテープさえ売れれば良く、専用カッターを開発する経費はマイナスだったため、ありそうでなかったのです。

ビジネスプランの時点で採算の取れない事業に企業が出資し開発するはずはありません。ましてや企業にとって医療界は理解できない別世界です。看護師が「欲しい」といっても誰も作ってくれません。

商工会議所の「自分で作りましょう!」の一言で、何もわからないままながら、看護師である自分自らの開発が始まりました。

中小機構の支援事業に応募したビジネスプランは申請時380万円でしたが、採択後1200万円の事業に修正されました。今考えれば大きな金額に驚きます。しかし、非常にお金がかかることをプロフェッショナルたちはわかっていたのです。

試作製作もなんの実績もない小さな女性社長は信用もなく、困難の開発過程でした。福井県工業技術センターや高専でプラスチックや3D設計などを自ら学び、光造形(3Dプリンター)で試作を重ねました。ようやく試作品が完成したものの、今度は金型を作ってくれるメーカーがありませんでした。企業の無言の断りとも言うべき「法外な価格の見積もり」ばかりを頂きました。その後、国の紹介で出来上がった金型も高額でクオリティの低いものでした。

しかし幸いにも大手製薬メーカーのお取引の話が持ち上がり、優良な金型メーカーが生産に乗り出してくれるようになりました。こうして安定した商品を生産できるようになりました。

夫は元病院勤めでマネジメントもできるため、この事業を見守ってくれました。最初の3D設計も夫の技術に助けられました。商品が出来上がったとき、夫は「何も知らなかったから作れたんだよ。現場のニーズからくる商品は売れると確信していた」と言ってくれました。

開発は1年半に及びましたが、多数の協力者のおかげで乗り越えることができました。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

現場では「あったらいいのに、こうならないか」の思いがあっても中々改善できない、それらを代行できる会社になればと思って活動を続けています。

医療用テープカッター「きるる」は院内感染の予防、処置効率、安全などに役立っていますが、「きるる」の開発の後、医療者だけでなく患者さんにとっても使い易く癒される商品開発をすることができました。それが点滴スタンド 「フィール」です。

小児科外来で働いていた時、定期的な抗癌剤治療中(AML)の8歳の患児が「点滴棒が見えなくてもガラガラという音だけで気持ち悪くなる」と言ったことが印象的に残りました。治療中はボトルを隠したり、保育士に遊んでもらったりと毎回工夫をしていましたが、点滴スタンドは備品でどうすることもできません。

また病棟では、こども達の絵の中に「嫌いなもの」として、第一位は「舌圧子」、第二位「点滴スタンド」、第3位「主治医の似顔絵」と描かれていました。一方医療者は点滴スタンドを毎日仕事道具として見ており、何も感じなくなっているのでは?と感じました。起業・開発販売の経験を活かして、今の私なら作れるのではないかと考え、点滴スタンドの研究開発を始めました。

先ず、ビジネスプランを立てました。資金の調達は、助成金などを活用すると行政のプレスリリースや指導などの+αのメリットがあるため、「ふくい逸品創造ファンド」(1/2助成)を利用。医療器具らしくなく、こどもにも優しい家具のイメージの木製を検討し、設計は知人のデザイナーに依頼し、世界に出しても通用するようなクオリティを目指しました。販路は「きるる」で得た、商社や展示会での直接販売をしました。

設計は6ヶ月、全開発期間は1年、実際に使われ始めてからの改良等の期間は1年かかりました。その結果、安全性はもちろん、患者だけが癒されるのではなく、辛い治療を行う医療者側も使い易く、癒され、お見舞いの方々もホッとするような点滴スタンドが完成しました。

この点滴スタンド「フィール」は2010年度グッドデザイン賞にも選んでいただきました。
http://www.g-mark.org/award/describe/36689

今後どのようにキャリアを形成していくか

現在は、他社の新製品開発などにも関わったり、医療機器やデザインに関しての講演活動などを行ったりしています。
メーカーの都合でできた医療機器だけでなく、看護師の目線を取り入れた商品が現場には必要です。そのような現場目線の製品が増えて欲しいという願いを込めて、自社製品だけでなく他社製品の改善にも関わっていければと考えています。

ブログ・ホームページなど

・株式会社メディディアHP:www.medidea.co.jp

著書など

・看護協会出版部から「開業ナース」出版予定。

ご自身が紹介されたマスコミ媒体などなど

日経新聞、読売新聞、朝日新聞、中日新聞、福井新聞、ソトコト、日経デザイン、日経ウーマン、医師道(日経BP)

起業情報

業種:医療機器の研究、開発、販売。医療コンサルティング、会社種類:株式会社
資本金:300万円
資本金の出所:200万(夫)100万(本人)
※実際は2000万円くらい必要だと思います。
役員人数:1人、他の役員のバックグラウンド:夫(他社IT企業の取締役 SE、開発)
起業した年:2006年、起業準備に要した期間:1年

医療従事者が起業するためのアドバイス

起業しても臨床から直ぐに離れないこと。
医療従事者は世の中とは違う社会性を身につけているため、普通のビジネスとの差を強く感じると思います。医療のマーケットが特殊な世界なのかもしれません。

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