+αな人

志賀 隆 氏

日本の医学教育とERを盛り上げたい〜シミュレーションの可能性

氏名 志賀 隆 Takashi Shiga, M.D.
年齢 ○○歳34歳(2010年2月現在)
現在の職業 Instructor, MGH Emergency Services, Fellow in Medical Simulation at      Harvard Medical School
現在の勤務先 Massachusetts General Hospital(マサチューセッツ総合病院)
出身大学・学部 千葉大学医学部 2001年度
臨床専門分野 救急医学
+αの道に入る前の臨床経験年数 8年
+αの道に入った後の臨床経験年数 1年
+αの道に入った際の年齢 33歳
+αの道の種類 医学教育・シミュレーション
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何故+αを選んだのか

私は現在、マサチューセッツ総合病院救急部のスタッフとしてレジデント指導・診療をしつつ、病院とハーバード大学医学部にてシミュレータを使って教育・研究をしています。

この道に入ったのは、学生時代の経験が影響しています。臨床医になるつもりで医学部に入学した後、自分の不勉強もあってか、わかりにくい基礎医学という印象がありました。臨床医学においても、ときに教員が自身の研究内容に傾倒し、必ずしも医学生に診断や治療の基礎を伝えていないという印象がありました。そのような頃、赤津晴子先生の「米国の医学教育」という本にハンマーで頭を叩かれたショックを受けました。その後、英国への短期留学・米国海軍病院での実習を経て、「卒業したら米国にて研修を受ける」という思いは強くなりました。とはいえ簡単に道は開けず、卒後5年目にメイヨークリニックにて救急医学の研修を開始。レジデンシー中に高性能マネキンを用いたシミュレーションによる医学教育を体験し、その奥深さと教育効果に感動しました。医学生が実践参加する実習が困難であること、日本の研修医が十分な手技経験を積めないこと、これらの問題を解決しつつ患者安全を保つことのできるシミュレーションこそ、日本の卒前・卒後教育を変える鍵になりうるものと思い、現在の職場におります。

どのようにして+αの道に入ったのか

前述のように、学生の頃から参加型の教育を求めていた私は、メイヨークリニックでの研修中に出会ったシミュレーションによる医学教育に可能性を感じました。レジデント最終学年のときに、マサチューセッツ総合病院とブリガムウィメンズ病院の医学シミュレーションフェローシップの採用試験を受け、マサチューセッツ総合病院に採用されました。

+αの道はどうであったか、何を学んだか

ハーバード大学医学部では、医学部入学後の第一週にバイタルサインの測り方、簡単な解釈の仕方、そして胸部の聴診について学びます。午前中にバイタルサインについて学んだ学生は午後に患者を診ます。

その患者とは内科や救急医学のスタッフ医師に操られた高性能マネキンです。症例は、喘息・気胸・前壁梗塞・下壁梗塞の4症例です。もちろん教員は色々と助け舟を出しながらケースを経験させます。

ケースが終わるとみんな着席し、リラックスした雰囲気の中で問診・診察・鑑別診断・解剖・生理・病理などを現役の臨床医と小グループにて議論しながら学んでいきます。

かなり早い段階で高レベルの内容に暴露されているようですが、私のフェローシップのディレクターであるDr. James Gordonらは高校生に同レベルのケースを経験させて、その後ハーバード大学医学部にもそのプログラムを提案し受け入れられたそうです。医学生たちは、呼吸器学や消化器学、薬理学などでもシミュレーション患者を診療したうえで、その後に関連項目を勉強します。

マサチューセッツ総合病院では、造影剤に対するアレルギー反応に放射線科レジデントがいちはやく対応できるように、放射線科と共同教育プロジェクトを始めています。

まずは放射線科の治療プロトコールを協同で再検討しました。それまで院内のエピネフリンは、異なる濃度のものや数集類の薬形があり、医療ミスを招く危険があったため、全て投与の簡単な使い捨てキットのものに変更・統一しました。その後更なる改訂を経てプロトコールが決まった段階で、レジデントにシミュレーションを通じてアナフィラキトイドの認識と適切な治療を教えています。

ハーバード関連の教育病院では、このようにシミュレーションを使って急変時の対応をトレーニングする科に対して、医療過誤保険の掛金を減額するインセンティブがあります。麻酔科や産婦人科では、トレーニングを受けた医師は過誤による支払いが少ないというデータも出ています。

今後、中心静脈カテーテルのトレーニング、産婦人科や小児科のチームトレーニングのプロジェクトにも参加していく予定です。

今後どのようにキャリアを形成していくか

医療現場でヒヤリ・ハットや過誤が生じた場合、それを前向きに解決していくことが必ずしも簡単にできるわけではありません。

MGHのシミュレーションチームは、まず協力する科の問題を認識し、それに対する解決方法をともに検討します。

そして対応案が決まったところで終わるのではなく、さらにシミュレーションという生きた教育の場を提供することで、より現場に生かされる機会を提供しています。

「少ないお金で高度で安全な医療を」という難しい要求のある日本の医療現場ですが、患者安全には時間と費用と手間がかかることを国民の皆様にご理解いただき、患者安全のためのシミュレーションが日本にて広まることを願っています。

第一に、私はERで働く救急医です。渡米した一番のきっかけは、自分の能力や不安の問題で患者を断ることなく、せめて入り口を確保することで、日本の救急医療に貢献できないかと思ったからです。

日本でもERで働く救急医の存在は徐々に認識されつつあり、若手医師の中でもERで働く救急医を目指す人達が増えています。しかしながら、彼らを臨床の現場で教育できる指導医は必ずしも十分ではありません。

ネットを活用して、やる気のある彼らのための教育資源をオンラインで提供すること、シミュレーションも含めた教育ノウハウを共有することで、日本のERで働く救急医が増えて患者の安全がさらに向上することも夢見ています。

 

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