+αな人

後町 陽子 氏

挑戦し、発信し続ける薬剤師 ~国際協力から医学教育メディアへ~

氏名 後町 陽子, Yoko Gocho, Msc, Rph
年齢 32歳
現在の職業 薬剤師教育コンテンツ企画制作・編集職
現在の勤務先 株式会社 ケアネット メディア本部番組企画グループ
出身大学・学部 明治薬科大学薬学部、金沢大学大学院医学系研究科国際保健薬学
臨床専門分野 薬剤師(脳神経外科)
+αの道に入る前の臨床経験年数 病院2年、薬局2年
+αの道に入った後の臨床経験年数 3か月
+αの道の種類 メディア、医療者教育

臨床+α 後町さん写真

何故+αを選んだのか

私は現在、医療者教育コンテンツの企画制作・編集を行っています。主に薬剤師向け無料学習支援サイト「ProファーマCH」の教育番組の企画制作とコラム編集を担当しています。前職は病院薬剤師です。

大学卒業後、青年海外協力隊として2年間ガーナにてエイズ対策業務に従事しました。ガーナでは、限られた医療資源とインフラの中で医療行う難しさを常に感じていました。村落部に医師はおらず、清潔な水や安定的な電力を得ることができません。診療に必要な消耗品なども、財源が海外援助に頼っていることがあり、援助元の方針により供給が左右されることもたびたびありました。また輸送システムが確立されていないため、自力で物品を調達・輸送する必要がありました。

最も困難だったのは貧困層へのアプローチです。国民の半分以上が1日1ドル以下で生活しており、彼らは病院へ来る習慣も、時間もお金もありませんでした。現地の医療者と共に村々を巡回し、健康教育活動やアウトリーチ活動を通して、彼らに医療支援を行いました。

しかし、海外援助により診療が行われても、現地の医療者・診療所は限られており、治療に必要な資金が継続的に支援されるとは限らないため、治療継続が難しいこともありました。また、普段から満足な栄養を摂取することができない人々は、体力・抵抗力が弱く、たとえ治療にアクセスできても、一見軽症の外傷や感染症がなかなか治らず重症化することがよくありました。また貧困層に限らず、治療が遅れたり適切な治療にアクセスできなかったりするために、健康な成人が突然命を落とすことは珍しくありませんでした。私自身も2年の間に、昨日まで元気に一緒に働いていた優秀な同僚をマラリアや交通事故の外傷などで亡くすという経験をしました。

「医療」は人々の生活を支えるうえで非常に重要な要素である一方で、生命の基礎は普段の生活であり、医療的な支援だけではできることが限られていることを知りました。そして、一人ひとりの生活・人生を支えるためには、経済的な面も含め、その人の生活を支援する包括的なアプローチが必要であることを学びました。そしてそれは途上国だけの話ではなく日本でも同じことであるということに、海外に出て改めて気づくことができました。そんな厳しい状況だからこそ、質の確かな必須医薬品が安定供給され適正使用されることの重要さを痛切に感じました。

帰国後は薬局で勤務しながら、金沢大学大学院で偽造医薬品を中心とした国際的な医薬品の流通と品質に関する研究をしました。その後、医薬品の最終的な受益者である患者について臨床的な理解を深めるため、病院へ就職しました。臨床現場では目の前の患者に対応することに精一杯で、自己研鑽や最新の情報収集も必要ベースで限られた時間で行っており、体系的に包括的にステップアップすることの難しさを日々感じていました。

それらの経験から、良質で有用な情報や教育を医療者へコンパクトかつスピーディに提供することができれば、医療がよりよいものに近づくと考えました。

どのようにして+αの道に入ったのか

学生時代から考えていたことですが、医療をより良いものにしていくには医療者教育を改善していく必要があります。既存の教育機関や現行のシステムのなかで行われているものではなく、もっと実践的でかつ楽しく学べる環境を作っていきたいと考えていたところ、現職の求人を見つけ、応募しました。

プラスαの道はどうであったか

今私が携わっている医療教育メディアは、現場で必要とされていることを見極め、多くの人々と協力しながら作り上げるという創造的な仕事です。何もないゼロの状態から企画を立案し、1つの作品を完成させ、人々に届けるという一連の過程には、決められた枠の中で業務をこなすことでは得られない大きな感動があります。

医療機関にいたころも、人々にわかりやすく発信することを心掛けていました。しかしメディアの業界に入って、それがいかに難しいことか、そしてそれがいかにできていなかったかに気付きました。有用な情報を正しくわかりやすくかつ魅力的に伝えるための方法を日々学んでいます。

医療現場の経験があるからこそ、現場で必要とされている情報・知識が感覚的にわかる部分もあります。わからない場合でも、それを知るための人脈があることは大変役に立っています。また、医療者は基本的に多忙であるという状況を理解していることが、実践・継続可能な形の学習コンテンツを提案することにつながっていると思います。

入社してから現在まで関わってきた番組のひとつは、薬物動態を生かした服薬指導の動画コンテンツです。薬がいつから効き始めるのか、副作用はいつ治まるのか、副作用の機序と対策、腎機能低下者や高齢者、授乳婦への投薬の安全性、などをテーマにシリーズで制作してきました。プロの役者による再現ドラマで具体的にどのような場面でどのように活用できるのかを例示しながら、患者さんが納得する説明・支援に必要な知識やスキルを現場で活用できる形でポイントを絞って講師の先生に解説していただきました。

講義形式の番組だけでなく、現場の経験を教育に生かすインタビュー番組など新しいジャンルにも取り組んでいます。外からなかなか見えにくい地域の薬剤師の貢献を紹介する番組では、地域の人々のQOL向上に薬剤師が明確に貢献した具体的な事例を全国各地の薬剤師に語っていただいています。

また、薬剤師に関連する政策の検討会や学会の報告を医療ニュース・医療情報ポータルサイトCareNet.comに掲載しています。何時間にもわたり議論された膨大な内容を、限られた文字数で伝えるのは簡単ではないと毎回感じます。「現場の人々が知りたいポイント」を意識して正しくわかりやすく伝え、最新の動向に関心を持っていただければと思います。

今後どのようにキャリアを形成していくか

WHOと世界薬学連合(FIP)が提唱している薬剤師の資質「The seven-star pharmacist」によると、現場で患者を支援しながら、経営を司り、教育を提供し、研究し続けるものが薬剤師であると言われています。今後も現場を重視しながら、国際的な視点と創造的な発想を持ち、人財交流の促進や有用な情報の発信をしながら人財育成と研究に取り組んでいきたいです。

ブログ・ホームページなど

http://yohkotin.blogspot.jp 

著書など

・薬学生・薬剤師向け情報誌MIL「薬剤師として国際協力を志す」連載
http://emil-jp.com/user_page_pdf_list.html
・日本薬剤師会薬学雑誌、海外事情 「ガーナの医療事情とHIV対策」
・マイナビ薬学生のための就活スタート号2014「世界の薬学&薬剤師事情」
https://job.mynavi.jp/conts/2016/tok/yak/kaigai/02.html
・ファーマシストマガジン「世界から見た日本の薬剤師の特殊性と可能性」
http://www.pharmacist-magazine.com/special/2013/201303.html

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